COLUMN ~私とH-IIAロケット~

泉 達司
現所属:S&MA総括
当時のH-IIA担当業務
2003年7月~2014年3月 主としてアビオニクスの開発/運用
最終号機を迎えるH-IIAロケットへのメッセージ
私のH-IIAロケットとのかかわりは、輸送部門に来る前にH-IIAロケット打上げ型宇宙往還輸送機(HOPE)のアビオニクス(搭載電子工学/搭載電子機器)担当としてH-IIAロケット側と情報交換をしていた時が始まりです。 1段ロケットの上に翼を持つHOPEを載せることで打上げ時の風の影響を受けやすくなることに対し、 風に対する感度の高い方向(ピッチ軸)の実効エンジン舵角を増やしてもらうために1段エンジン・ジンバルアクチュエータの取付方向を機体のピッチ/ヨー軸に対して45°回転してもらったり、 H-IIAロケットの慣性センサーをHOPEに流用するための情報を教えてもらったりしていました。
2003年7月に輸送部門に異動しアビオニクスの担当となりました。 最初の打上げがその年の9月の6号機でした。 初めてブロックハウスという地下管制室で打上げを迎えたその日、機体の試験の最終段階で計画に沿って1つのアビオニクス機器の電源を入れなおしたところ、その機器の電源が入らないという不具合が発生し打上げは中止となりました。 この日が人生初の記者会見になりました。
その後速やかに当該機器のメーカー(東京都内)で原因究明と対応の検討が始まりました。工場近くのホテルに泊まりこみ、連日深夜までメーカーのエンジニアと議論しながら原因を見つけ対策を策定しました。 再現性が低くかなり難しい作業になりましたが、メーカーのエンジニアの頑張りで発生から18日後に最終的な対策の報告にまでこぎつけることが出来ました。 気が付くといつの間にか自分の所属がNASDAからJAXAに変わっていました。
この大変な思いをした6号機ですが、その後の打上げで別の原因で失敗することとなりました。 アビオニクスは失敗の直接原因ではなかったのですが、打上げ再開までに信頼性を抜本的に向上させるべく、設計や製造の見直しを行うことになりました。 その中で最も効果があったのは、助っ人で来てもらった方の提案により実施した詳細ウォークスルーだと思っています。
ウォークスルーとはソフトウエア開発で使われる検証の手法の一つで、コードを書いた人が最初からプログラムの流れに沿って1ステップずつ説明をし、それを他の人が聞きながら動作の確認をするものです。 これをアビオニクス機器の設計に応用し、電気回路の信号の入り口から出口まで部品ひとつずつの動作を、部品の規格範囲内で特性や信号がばらついても大丈夫か等の視点で確認していきました。 この作業を全機器メーカーの工場で設計図や設計計算書を開示してもらい、メーカーのエンジニアとJAXAの担当者や有識者で議論しながら進めていきました。 膨大な作業となり、結果としてすべてを網羅することは出来ませんでしたが、多くの懸念点が見つかりました。 見つかった懸念点について重要なものと可能なものはあるべき回路へ修正、制約があり困難なものについては条件を付けるなどしたうえで暫定対策を取り、次の開発機会への申し送りとして残すなどの処置を取りました。 この結果、その後のアビオニクスの不具合は大きく減ったと思います。 また、その後の再開発の際にはこのような活動をすることで信頼性確保を図っているメーカーもあると聞きました。
このほかにも、
- 当初まとめ買いした部品が枯渇することに対応した機器再開発やその機会を捉えたロケット共通MPUボード構想の立ち上げと開発、それに伴う高信頼性リアルタイムOSの適用とフライトソフトウエア開発環境の整備、
- 飛行安全で機体位置・速度把握に使用していた高精度レーダ地上局の代替となる搭載型の機体位置速度センサーであるRINAの開発、
- 部品の再枯渇を回避するための部品まとめ調達スキームの立ち上げ、
等、色々なことを経験しました。これらはすべて直接担当してくれた人の努力のおかげで所期の目標を達成し、H-IIAロケットの安定した運用に寄与することができたと思います。
また、再開発にあたっては、特に誘導制御系機器においてモジュール化に配慮した設計としており、その点を活用してイプシロンロケット用の機器へ容易に変更できたと思います。
担当としての最後の打上げは2014年の23号機でした。その後もS&MA(Safety & Mission Assurance)の立場ではありましたが打上げの度に見守ってきました。 これまで連続成功を続けてきたH-IIAロケットの最後の打上げも成功し、有終の美を飾ることを祈っています。
私のNASDA/JAXA人生の中で大きな位置を占めるH-IIAロケット、これまでご苦労様でした。そしてありがとうございます。

H-IIAロケット7号機(RTF:飛行再開フライト)打上げ成功にかかる寄せ書き
(※画像を一部加工しています)