
試験機1号機の打上げ失敗
2023年3月7日10時37分55秒にH3ロケット試験機1号機を打ち上げましたが、第2段エンジン「LE-5B-3」が着火しなかったことにより、
搭載衛星である「だいち3号(ALOS-3)」を所定の軌道に投入できる見込みがないことから10時51分50秒、ロケットに指令破壊信号を送出し、打上げに失敗しました。
ロケットに何が起きたのか?
H3ロケットは電気信号をロケットの頭脳「VCON2」から流して各バルブを作動させ、エンジンを着火させます。
試験機1号機では第2段エンジンに着火のための電気信号を送った直後に、2段機体の搭載機器の1つである「推進系コントローラ(PSC2)」が異常を検知し、下流機器への電源供給を遮断しました。
PSC2は「PSC2A」(A系)と「PSC2B」(B系)の2つの回路を持っており、一方が故障しても、もう一方で補える冗長設計としておりましたが、A系での電源供給遮断後、切り替えた先のB系においても同じく異常を検知し、
電源供給の遮断という結果となり、第2段エンジンの着火に至りませんでした。
なぜそのようなことが起きたのか?
「故障の木解析(FTA、Fault Tree Analysis)」と呼ばれる分析する手法を用い「2段エンジン不着火」という発生事象から、それに繋がる因果関係を洗い出し原因を特定する解析を実施しました。
その結果、推進系コントローラ(PSC2)又はその下流機器で想定以上の大きな電流(過電流)が発生し、PSC2もしくはエキサイタが損傷したため電気系統の遮断が発生したと特定しました。ではなぜその過電流が発生したのか。
さまざまな過電流の発生シナリオを想定し検証や再現試験を行った結果、最終的に3つのシナリオに絞り込みました。
【原因と考えられるシナリオとその対策】
①エキサイター内部で軽微な短絡、SEIG後に完全に短絡 ⇒ 絶縁強化および検査強化を実施する
②エキサイターへの通電で過電流状態が発生 ⇒ 部品選別により電圧を定格内とする
③PSC2A系内部での過電流、その後B系への伝搬 ⇒ 定電圧ダイオードを取り除きB系への伝搬を防止する
早期に2号機を打ち上げるため、この3つのシナリオから1つに絞りこむことには固執せず3つ全てに対策を打つこととしました。またなぜこうした事象が起こるに至ったのか背後要因の分析も併せて行いました。
信頼性向上への取り組み
打上げ失敗の原因究明活動を通じてH3ロケットの信頼性向上に繋がる改善点を抽出することができました。
具体的には「H3ロケットの計測データ充実化」と「H3ロケットの冗長切り替えロジック改善」を行います。
また開発体制の強化を目的として「ロケット電気系開発の強化」についても取り組む予定です。
試験機2号機の打上げに向けて
2023年3月7日のH3ロケット試験機1号機の打上げ失敗を受け、JAXAでは対策本部を設置し原因究明等の調査を行いました。
その後約半年に渡り、限られたテレメトリデータを慎重に分析するとともにあらゆる可能性について再現試験などで確認することで原因究明とその対策方法を確定しました。
同年10月26日に原因究明結果に係る報告書をとりまとめ、同日に開催された文部科学省 宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会に報告を行いました。
現在、原因と考えられる3つのシナリオへの対策を実施すると共に、背後要因分析に基づく対策、加えて信頼性向上策を進めています。
試験機2号機の早期の打上げを目指し作業に取り組んでいます。
用語の解説
- ・VCON2(2段機体制御コントローラー):
-
ロケットの頭脳、自身の位置・速度・姿勢情報をもとにエンジン・ガスジェット制御・エンジン舵角制御等の機体制御信号を発出して各サブシステムコントローラへ指示を出す。
冗長化のためV-CON2AとV-CON2Bの、同じものを2つ搭載している。
- ・PSC2(2段推進系コントローラー):
- V-CON2からの指示を受け、タンク圧制御、エンジン制御、ガスジェット制御等の推進系サブシステム制御を行う。1つの箱の中にPSC2Aと2Bの2つの回路を持ち、冗長系統となっている。
- ・ECB(エンジン・コントロール・ボックス):
- エンジンの始動停止時にバルブの開閉タイミングを決定する制御装置。
- ・PNP(ニューマティック・パッケージ):
- エンジンバルブ駆動用ヘリウムガスの供給や点火器エキサイター・スパーク・プラグの駆動を制御する装置。
- ・エキサイタ:
- エンジン点火器のエキサイター・スパーク・プラグ。火花を出してエンジンに着火する役割を担う。
