鹿児島宇宙センター
内之浦宇宙空間観測所
内之浦宇宙空間観測所(以下、USC)は、イプシロンロケットおよび観測ロケットの打上げ運用や衛星の追跡運用等の施設です。 USCの業務は、これら主たる業務を円滑に遂行するための関連設備や資産等の維持管理・保守保全・打上げ安全監理業務(電気/通信/機械系・施設系業務)をはじめ、 周辺自治体との連携に係る業務等や施設運営情報の発信や国内外からの視察等の対応等(総務・広報系業務)などを行っています。上記の中で私は現在総務系の業務に携わっています。
USCはイプシロンロケットと観測ロケットの発射場であることから、打上げ運用に係る地元対応も主たる業務に含まれています。 ロケット機体・部品の陸上輸送、ロケット打上げを行う際には各関係機関との調整や許認可等手続きが欠かせず、状況に応じて主体的にこれらに関わります。 特にロケットの打上げの際には、地域住民の方々の協力が欠かせないため日頃から地域の方々との良い関係を作っておくことも大事にしています。 これまで半世紀以上にわたって構築してきた地域住民の方々との良好な関係はJAXAの基幹事業推進のための重要なアセットです。USCの近くには集落があり住民の方々が生活されています。
イプシロンロケット打上げの際は保安上の理由から立ち入りを制限する警戒区域を設定するのですが、区域内には居住者がいらっしゃるため打上げ時は区域外に退避いただいています。 このようなご協力をお願いするにあたり事前に説明会を開催するなどして、退避の必要性や打上げに向けたスケジュール等を共有します。 このように打上げを確実に実施するため、日常から信頼関係を大切に考えており用件がなくても様子見に出かけたりすることもあります。 このような地元対応は、目に見える形の仕事としてスポットライトを浴びるものではありませんが、ロケットの打上げを影で支える重要業務です。 ちなみに、事務系業務はデスクワークばかりかと思われがちですが、決してそんなことはなく、観測ロケットの打上げでは飛行するロケットを映像で追尾する業務の班(RS光学班といいます)に所属して光学観測を行うこともありますし、 たまにチェーンソーを振るって樹木の伐採等を行うこともあります。
かつてのUSCでは、地元出身者を積極的に採用していました。地元の言葉で会話ができる職員は貴重な戦力で、地元対応を通じてJAXAと良好な関係が維持されてきたという経緯がありました。
しかし、時を経てその職員たちの全員が定年退職し、地域事情をよく知る人がいなくなってしまいました。
円滑な事業所運営のためにも地元対応能力の高い人材の確保が急務となり、2019年に総務系人材の経験者採用(現キャリア採用)募集が行われました。
人材が公募された当時、私はUSC地元の肝付町役場の職員でした。
役場ではJAXAとの関係をつなぐロケット担当を務めたことがあり、2012年のUSC開設50周年記念事業や糸川英夫博士の生誕100周年記念事業、
肝付町と南種子町の友好都市交流提携「宇宙兄弟宣言」調印などに携わったほか、イプシロンロケット試験機や観測ロケットの打上げにおける見学者の受け入れ対応などを行ってきました。
元々宇宙に対して特段の憧れ等を抱いていたわけではありませんでしたが、町役場のJAXA担当職員として事業に関わり、
JAXA職員とも面識ができて打上げ前の記者説明会などにも顔を出すようになると無関心だった自分がうそのように「JAXAって面白いことやってるな」と思うように変化しました。
上記の職員公募を知ったとき、「これは自分にしか務められない」と直感しました。それまで転職について考えたこともありませんでしたが、これまでの自分の経験が円滑な事業所運営に貢献でき、
さらに地元のためにもなると思えたとき、急に目の前に道が開けたような気がしたのです。気付いたときには家族に相談して、迷うことなく応募ボタンを押していました。
前職では福祉や財務、企画や情報政策など幅広い業務を経験しており、また官公庁とのやり取りも多く行ってきたことから、全てが現在の業務に活かされていると感じます。 総務系業務と言っても内容は幅広く、役所でいえば複数部署にまたがるような内容もありますが、前職で幅広く経験できていたこともあって、着任後も違和感なくスムーズに業務に入ることができたと思います。
前職時代、映画「はやぶさ 遥かなる帰還」にエキストラとして出演させていただいたことがあります。 ISASの作業着を着て、管制室の中でM-Vロケット5号機の打上げを見守り、成功を知って皆と喜び合うというシーンで、喜びを表現するのが難しかったことを覚えています。 転職して打上げを何度か経験していますが、毎回得られる達成感は転職前には想像しえなかったもので、筆舌に尽くしがたいものがあります。 技術系職員も事務系職員も関係する全員が同じように打上げの成功、実験の成功という方向を向いてそれぞれの役割を果たしていることを知ったからなのかもしれません。 過去に戻ることが叶うならば、先の撮影シーンで過去の自分に演技指導したいぐらいです(笑)
USCは山地に存在することから、開設前に検討された機能を配置するための台地がそのまま維持されており、建物や設備も古いものが多く存在します。 いい意味で、施設設備を長い間大切に使用し続けてきたわけですが、未来永劫使い続けられるわけではないため、これらの老朽化対策は避けて通れない課題となっています。 しかしながら、半世紀以上前の基本構想に基づく配置となっているため、老朽化対策として同じ場所に同じ機能で作り直すだけでは意味がありません。 これからの射場がどうあるべきか、そのためにはどの場所にどのような機能を配置すればよいかといった基本構想からやり直す必要があると考えています。 すでに一部取組みを開始したところですが、昨今求められる打上げの高頻度化にも対応できるような将来構想を描き、USCの次の50年を形づくりたいと思っています。
©Japan Aerospace Exploration Agency