ロケットの基礎知識

製缶技術への活用 ダイヤカット缶

缶チューハイに「ダイヤカット缶」とよばれるアルミ缶があります。ダイヤカット缶の胴の部分には、トラス(三角形の骨格構造)を立体的に組み合わせた、切子細工のような独特の形の加工がほどこされています。 ダイヤカット缶に用いられている形状は「PCCPシェル」(Pseudo-Cylindrical Concave Polyhedral Shell)とよばれ、極超音速機の胴体の破壊のモデルの研究過程で生まれたものです。 1960年代に NASAのラングレー研究所で日本人研究者(三浦公亮氏)が行った、円筒形の構造体に力が加わって生じる変形パターンの研究が、缶のデザインに応用されました。

陽圧ダイヤカット缶
左側:開栓前の内圧がかかった状態
右側:開栓後ダイヤ模様が現れたもの
提供:東洋製罐(株)

缶チューハイとして商品化され、
「グッドパッケージング賞」を受賞
画像提供:キリンビール(株)

宇宙往還機の材料技術 傾斜機能材料の活用

宇宙往還機の材料技術開発の過程で、傾斜機能材料の概念が生まれました。 傾斜機能材は使用環境に応じて必要な機能を得るために材料組成を傾斜分布させて特性を制御するものであり、1つの材料に複数の機能を取り込むのに有効な材料です。 傾斜機能材料の発想自体はJAXAで生まれたもので、科学技術振興機構(JST)と共同でデータベースを公開しています。
この傾斜機能材の考え方は、スパイクシューズや電気カミソリの刃などで幅広く利用されています。

従来はコストの安い工具鋼を金具部分に使っていたが、激しい野球の動きの中で生じる突発的な衝撃による土砂磨耗に耐えられなかった。 これに対処するため、極めて耐摩耗性に優れている超硬合金を金具先端部分に傾斜的に配し、コストの増加を最小限に抑えつつ機能UPを実現。
提供:ミズノ(株)

ロケットノズル部および耐熱断熱カーテン等の基材

高い耐熱性などを要求されるロケットノズル部分の基材や、耐熱断熱カーテンの基材に利用された技術が、耐火スクリーンや家庭の消火対策製品の開発に生かされました。

ロケットノズル部の耐熱カーテン向けに、耐熱性・断熱性に優れた材料であるシリグラスの表面加工技術を開発し、従来よりも高い耐熱性、防炎性を実現しています。 この布状のシリグラスの成果により、従来の防火シャッターに比べはるかに軽量な耐火スクリーンの実現や、家庭における天ぷら油などの発火時の消火に役立つ消火布などの開発に成功しています。
今後は、耐熱性などが求められる触媒関連の部品などの高付加価値な素材分野への適用などが期待されています。

H-IIAの固体ロケットブースターのノズル及び周辺部に耐熱性・断熱性に優れたシリグラスを利用

耐火スクリーン
提供:日本無機(株)、ユニチカ設備技術(株)

布状のシリグラス
提供:日本無機(株)

爆風伝播シミュレーションプログラムリニアモーターカーの先頭車両設計

JAXAでは、ロケット打上時の万が一事故に備え、事故が起こった場合の爆風の強度が遠方でどの程度減衰するか地形の影響を含めてシミュレーションすることにより、保安距離の算定に役立てていまし た。 この技術が、トンネル微気圧波を低減させるための高速鉄道の先頭車両の設計・評価に応用されています。
JR西日本の500系新幹線の先頭車両設計に利用されたほか、現在、JR東海及び総研で実験中のリニアモーターカー最新車両である山梨実験線リニア車両の先頭車両もこの方法で設計されています。

 

提供:(株)JR東海・総研

自動車用エアバッグ

エアバック用ガス発生器に用いるイニシエータ技術に固体ロケット点火用火工品技術が応用されました。

提供:(株)アイ・エイチ・アイ・エアロスペース
写真:日産自動車

H-IIロケットのジョイント技術 免震用積層ゴム支承(建築用)

H-IIロケットのフレキシブルジョイントの製造技術及び品質管理手法を、地上における建築免震用積層ゴム、マルチラバーベアリング研究に応用し、開発されました。
この技術確立によって、黎明期にあった免震ゴムの市場形成(国内市場 100~120億円)や普及が促進 され、一部の病院・公共機関だけではなく、大型流通倉庫、半導体工場、超高層マンション等の幅広い建築物への免震ゴムの利用が実現しています。

薄いゴムシートと鋼板を交互に積層することで、建物の荷重を支えながら、地震時には水平方向の柔らかいバネ特性と変形性能を活かして、建物用免震装置として用いられています。 現在用いられている積層ゴム支承にはゴム材料に天然ゴムを用いた、天然ゴム系積層ゴム支承と、減衰性能を付加した高減衰系積層ゴム支承、さらに天然ゴム系積層ゴム支承の中央部に鉛プラグを挿入した鉛プラグ入り積層ゴム支承があります。

 

積層ゴム支承は建物と基礎の間に設置され、建物の荷重を支えながら地震時には水平方向へせん断変形し、建物へ伝わる地震の力を減少させます。
提供:株式会社ブリヂストン

ロケット断熱材 建築用断熱塗料

ロケット先端部(フェアリング)用に開発された断熱材技術は、軽量で熱制御性に優れ、かつ優れた施工性を有しています。
この技術を応用して、(株)日進産業が、幅広い温度帯の建築、車両、設備、部品等の産業ニーズに応えることのできる「高性能塗布式断熱材」を開発し販売しています。 厚さ1~2mmで究極の断熱効果を発揮するこの断熱材によって、エアコンの稼働率が下がり、CO2発生を抑制し、地球温暖化の防止にも寄与します。また、「塗るタイプの断熱材」であるので、曲面にも塗布可能で、様々な用途にも利用可能です。 日進産業はこの断熱塗料の開発によって、東京商工会議所から表彰されるなど、業界の注目を集めています。

 

 

 

フェアリング内の騒音を軽減するための防音ブランケット
⇒ 高品質な室内吸音材

ロケット打ち上げの際に生じる騒音によって、フェアリング内に搭載された衛星が損傷を受ける場合があります。そうした騒音を軽減するためにフェアリング 内に吸音性のブランケットを貼る場合があります。 この防音ブランケットに高い吸音性を誇る超極細ガラス繊維「フィラトミクタ®」を利用するための開発、実験等を通じて、ブランケットの素材の吸音性と通気性の最適化技術が得られました。こうした技術が格調高い壁装の吸音材向けの生産にも利用されています。 今後は、特殊なガラス組成、多孔質性を生かすことで、フィルターやガス吸着材といった高付加価値な素材分野への適用などが期待されています。

 

平均3.5~0.4ミクロンの超極細のガラス繊維によって高い吸音性を実現
提供:(株)川島織物セルコン

ロケットや衛星のCFRPの空気結合超音波探傷技術
航空機や車両向けのCFRP検査技術へと応用

ロケット、人工衛星などで多用される軽量で高強度なCFRP(炭素繊維強化樹脂)にはく離や割れといった傷がないかを、高信頼性・高効率で計測する手法が求められ、非接触で検査が可能な空気結合超音波技術が開発された。 CFRPの利用分野の拡大と共に、多様な形状の部材にも対応できる技術へと進化されており、近年 では金属部材の検査にも転用が進められている。

宇宙用複合材燃料タンク技術 燃料電池車用高圧水素タンク

宇宙往還機などの極低温燃料タンクの研究で得られた技術(液晶ポリマーフィルムライナー技術)を燃料電池車用の高圧水素ガスタンクのライナー材に適用。新しくブロー成形技術を開発し、高性能と低コストを両立。現在商品化を研究中。

©Japan Aerospace Exploration Agency