H3・新体制
新プロジェクトマネージャ紹介

―プロジェクトマネージャに就任した現在の心境をお聞かせください。

有田誠 新プロジェクトマネージャ

まさに身が引き締まる思いといったところです。 試験機2号機の打上げには無事に成功しましたが、固体ロケットブースタ無しの形態や恒久対策型LE-9エンジンの開発など、まだまだやり遂げなければならないことがたくさんあります。 H3プロジェクトの発足からサブマネージャとして長くプロジェクトに向き合ってきましたが、これまでとは違う「大きな荷物を背負っている」と感じています。

―これまでのサブマネージャのお仕事内容を簡単に教えてください。

プロジェクト立ち上げ当初からH3に関わってきまして、2015年からはサブマネージャとして、プロジェクトマネージャの補佐の他、技術開発の観点では構造系や固体ロケットブースタ(SRB-3)開発を指揮していました。 もうひとつの大きな柱はH3を「売れるロケット」にするための活動で、打上げ事業者やメーカとの役割分担などを定めた枠組み作りや実際の売り込みへの協力といったことを行ってきました。

H3ロケット試験機1号機

―H3に関わる前はどのようなお仕事をされてきたのでしょうか?

H-II、J-I、J-II、H-IIA、H-IIBと5機種のロケット開発に関わってきました。 H-IIは初の全段国産の大型ロケットで入社直後にLE-7エンジンの開発に関わりました。 J-Iは今のイプシロンの先駆けのようなロケットで、私のロケット屋としての基礎を作ってくれたロケットでした。 J-IIは後にGXと呼ばれることになり、2段にメタンエンジンを用いる先進的な構想でしたが、途中で開発中止となりました。 H-IIAは1号機打上げの直前から開発に参加し、エンジンやSRBの改良、6号機の失敗からの再起、最強型と言われたH-IIA(204形態)の開発などを手がけました。 H-IIBはそれまでの集大成として開発のまとめ役として全段システム開発に取り組み、宇宙ステーション補給機こうのとり(HTV)を載せて1号機を計画通り打ち上げました。

打上げ失敗に伴う原因究明

―試験機1号機が失敗した際の心境を振り返ってお聞かせください。

開発に難航していた第1段エンジン「LE-9」が無事任務を果たしてホッとしていたのも束の間、「まさか第2段エンジンに火がつかないとは、、、何が起こっているんだ」という思いが頭の中をぐるぐる巡っていました。 新規開発した「LE-9」や「SRB-3」が初めてのフライトで見事に機能・性能を発揮したのに対し、実績が十分にあった第2段エンジンの着火信号が確認できないという事態はにわかには信じられなかったのです。 「H3の初打上げは残念な結果になり、大切な衛星を落としてしまった。」その事実に愕然としました。

―失敗から得られたものはありましたか?

失敗の原因を探るためにはテレメトリ(ロケットから地上局に送る)データが肝になります。 打上げ直後から原因は推定出来ていましたが、本当にそれが正しいのかを含め、問題のテレメトリチャンネルでは1秒間に8回のデータしか得られず、そのデータの少なさゆえ原因究明が難航しました。 免許を取得できる電波の周波数にも限りがあるため、データ量を無尽蔵に増やすこともできません。ロケットが飛んでいる間に何が起きたのかを詳細かつ正確に知る手段をもっとたくさん持つことが必要と感じました。 また概念的なところだと、ロケットは「やり尽くした」という思いで打ち上げるのですが、やはり「神のみぞ知る」というような部分があることを痛感しました。 それらに適切に「気付く」ことができるように、それらを知る手段を是非持ちたいと考えています。

H3ロケット試験機2号機

―試験機2号機ミッションが成功した瞬間はどのような気持ちでしたか?

一番嬉しかったのはVEP-4(ダミーペイロード)の分離がうまくいったときですね。 全てのミッションを完璧にこなし、これまでの、特にこの1年の苦労が全て吹き飛んだ気がして、泣きながら笑って会社の垣根を越えて、皆と握手したり抱き合ったりしていました。 それまであった胸のつかえが取れたような気がしましたが、一方で、なぜここに「だいち3号」が載っていないのだろうという悔しい思いもありました。

―プロジェクトを進める中で成し遂げたいことはありますか?

H3プロジェクトのもうひとつの大きなミッションに「技術伝承」があります。 新しいロケットを1から作る機会は限られていて、一世代前のH-IIAは2001年に試験機1号機を打ち上げたので、約20年ぶりの新規開発となります。 運用しか知らない若い世代がどんどん増えてきている中で、H-IIA開発の終盤を経験した最後の世代である私たちが現場にいるうちに若手に技術伝承していくことが大事だと思っています。 それは書き物だけで残せるものではなく、例えば開発へ取り組む姿勢であったり、メーカーさんとの付き合い方などを丁寧に伝えていきたいです。

打上げが成功したH3ロケット3号機

―どのようなプロジェクト運営を目指していますか?

私は現場に近い立場でこれまでロケット開発に取り組んできました。 これからも地に足がついた形で現場からチームや、H3ロケットを磨いていきたいと考えています。 めったに巡り合えないロケット開発の機会であることを肝に銘じ、それに携われることを前向きに捉えて、「明るく・楽しく・丁寧に」をモットーにチーム皆の力を結集して開発や打上げ業務に取り組んでいきたいと考えています。

―最後に今後の目標、意気込みを教えてください。

まず第一に、当面の打上げで連続成功を続けること、そして全ての機体形態の飛行実証を行い、恒久対策仕様のエンジンを完成させて、世界中のみなさんに愛されるロケットにすることを目指していきます。 試験機1号機の失敗を乗り越えたことで、チームは大きく成長することができましたので、皆の力を結集させて必ず実現させたいと思っています。

取材日 2024年8月

プロフィール

有田 誠(ありた・まこと)
H-II、H-IIA、H-IIBロケットなどの開発を経て、H3プロジェクトの立ち上げに関わる。 2015年のH3プロジェクト発足当初からサブマネージャを務め、2024年4月にプロジェクトマネージャに就任。

©Japan Aerospace Exploration Agency