H3ロケット

地上設備とは

ロケットは、エンジンや機体だけでは飛んでいくことはできません。 機体の組み立てや移動に使う設備、ロケットに推進剤や電力を供給する設備、そして発射台などの地上設備があって、 初めて宇宙へ向けて打ち上げることが可能となります。

こうした地上設備のうち、ロケットが飛び立つ射点周辺にある設備を「射点系設備」、打ち上がったロケットを電波やレーダーで追尾したり、 万が一の際に指令破壊するための信号を送ったりするための設備を「射場系・飛行安全系設備」と呼んでいます。

射点系設備

H3ロケットの打ち上げを行う種子島宇宙センターの射点系設備は、多くのをH-IIA/H-IIBから流用しつつ、一部を新たに製造しました。

竹崎発射管制棟(LCC)

H-IIA/Bの発射官制棟(ブロックハウス)は打ち上げ時は規制区域内になってしまう整備組立棟(VAB)近くに位置していましたが、 H3では射点から約3km離れた竹崎地区に「竹崎発射官制棟(LCC)」を新設しました。近くには、ロケットの打ち上げ作業全般の指令管制を行う「竹崎総合指令棟(RCC)」があり、その隣に設置することで連携を密にしています。

また、自動化などによる省力化も果たし、発射管制を行う人員をH-IIAに比べ3分の1から4分の1程度に減らすことに成功しました。

移動発射台(ML)

H-IIA/Bでは発射台を移動式とすることで、高い効率での連続した打ち上げを可能としました。 H3でもそのコンセプトは踏襲するとともに、上部デッキを平坦化することで打ち上げ後の補修作業の削減を図っています。

また、H-IIAとH3では機体の構造が大きく変わったため、打ち上げ前のロケットを保持し、 打ち上げ時には確実に発射台から外すための「機体ホールドダウン機能」を新たに付加しました。

なお、H3用の新しい移動発射台は「ML5(Movable Launcher 5)」と呼び、これまで使ってきたML1(H-IIA用)、 ML3(H-IIB用)の名前や伝統を踏襲したものとなっています。

H3ロケット用新型移動発射台

移動発射台運搬車(ドーリー)

移動発射台運搬車(通称「ドーリー」)は、MLとその上に載ったロケットをVABから射点へと運ぶ役割をもっています。 現在使用中のドーリーは製造から20年が経過することなどから、JAXAの要求に基づき、三菱重工が詳細仕様を決め、日本車輌製造が設計・開発、製造を行いました。

運搬時には2台が協調して運転。1台あたりの全長は約25m、高さ・幅は約3m。台車は2台が1組となって並走してH3ロケットを運び、積載能力は1460トンにもなります。 最高速度は約2km/hで、VABから射座までの約500mの距離を、約30分かけて運びます。

運転席には人が乗車するものの、基本的には地面に埋め込まれた磁石をセンサーがたどることで自動運転となっています。

また、発射台と射座との間を配管などでつなぐ必要があることから、停止位置の誤差はわずかプラスマイナス25mm(前後左右)に収まるようになっています。 さらに水平精度は常に0.2度、つまりほとんど傾かずに、さらに加減速時の加速度は0.08G以下と、優しく安全に運べるようにも配慮されています。

くわえて、故障などにそなえ、高い信頼性、冗長性、メンテナンス性も兼ね備えています。 さらに、各部のチェックを自動でできるようにしたり、部品の消耗度を管理するシステムを導入したりすることで、年間維持費を半減しました。

H3ロケット用新型移動発射台運搬台車(ドーリー)

射場系設備

H3は打ち上げ後、竹崎総合指令棟(RCC)から管制(飛行の状態を常に監視し、安全な飛行の確保や、打ち上げミッション達成確認など、 さまざまな判断をすること)を受けながら飛行します。

そのため、飛行経路の下にあたる地域に、電波でロケットを追尾し、ロケットとの間の信号を送受信する「追尾局」を設置しています。 地球は丸いですが、電波はまっすぐにしか飛びません。そのため、国内外にある複数の追尾局を使い、リレーのバトン渡しのように順番に追尾を行っています。 こうした追尾のための施設設備のことを「射場系」と呼んでいます。

射場系設備の刷新

JAXAでは、種子島、内之浦、小笠原、グアム島(米国)、クリスマス島(キリバス)、そしてサンチャゴ(チリ)に追尾局を持っています。 ただ、古いものはH-IIAの試験機1号機を打ち上げたころから使っており、アンテナや設備の老朽化が進んでいます。 また、地上局は長い期間使うこと、そしてH3が目指す「柔軟性・高信頼性・低価格」という目標に設備側から貢献するため、H3の開発に合わせて、 新たに整備、刷新することにしました。

最も大きな変化は、各追尾局の運用をRCCから遠隔操作できるようになったことです。 これによって追尾局に配置する人を減らすことができ、打ち上げ費用の削減に寄与しています。 また、RCCからの操作も自動化することによって、運用要員の負担を減らすとともに、設備維持の効率化や維持費の削減も可能にしました。

受信設備では、H3の搭載機器と追尾局の性能バランスを最適化し、アンテナを小型化。さらに受信系装置の数を減らすことで維持費の削減を図っています。

射場系の刷新の一環で、種子島に新しく建設した竹崎局

©Japan Aerospace Exploration Agency