3号機では試験機1号機、試験機2号機と同様のH3-22S形態により先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)(以下、「だいち4号」という。)を打ち上げました。 また衛星分離後に、コーストフェーズを経て制御再突入を行いました。 ペイロードである「だいち4号」は、2014年に打ち上げた陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)(以下、「だいち2号」という。)の後継機であり、Lバンド合成開口レーダ(PALSAR-3)を搭載しています。 新たに採用するデジタル・ビーム・フォーミング技術により、ALOS-2の高い空間分解能(3m)を維持しつつ、観測幅を4倍(200㎞)に拡大し、平時における地殻・地盤変動などの観測頻度を向上させます。 これにより、発災後の状況把握のみならず、火山活動、地盤沈下、地すべり等の異変の早期発見など、減災への取組みにおいて重要な役割を担います。 また、合成開口レーダーと協調観測することで海洋監視に貢献する AIS(船舶自動識別装置)信号用受信機(SPAISE3)も搭載します。
試験機1号機・試験機2号機と3号機の比較
TF1 | TF2 | F3 | |
---|---|---|---|
機体形態 | H3-22S | H3-22S | H3-22S |
ペイロード | 先進光学衛星 「だいち3号」(ALOS-3) |
VEP-4 小型副衛星 (CE-SAT-IE) 小型副衛星 (TIRSAT) |
先進レーダ衛星 「だいち4号」(ALOS-4) |
衛星フェアリング | ショートフェアリング | ショートフェアリング | ショートフェアリング |
第1段(LE-9) | Type1×2基 | Type1×1基 Type1A×1基 |
Type1A×2基 |
固体ロケットブースタ(SRB-3) | 2本搭載 | 2本搭載 | 2本搭載 |
第2段(LE-5B-3) | 1基搭載 | 1基搭載 エキサイタ改修品 |
1基搭載 エキサイタ改修品 |
搭載機器 | H3-22S対応 | H3-22S対応 PSC2改修品 |
H3-22S対応 PSC2改修品 |
2023年3月7日のH3ロケット試験機1号機の打上げ失敗を受け、JAXAでは対策本部を設置し原因究明等の調査を行いました。 その後約半年に渡り、限られたテレメトリデータを慎重に分析するとともにあらゆる可能性について再現試験などで確認することで原因究明とその対策方法を確定しました。 同年10月26日に原因究明結果に係る報告書をとりまとめ、同日に開催された文部科学省 宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会に報告を行いました。 原因と考えられる3つのシナリオへの対策を実施すると共に、背後要因分析に基づく対策、加えて信頼性向上策を進め、全ての準備が整ったことから、試験機2号機を打ち上げ日を2023年12月に発表しました。
試験機1号機の打ち上げ失敗とそれによる先進光学衛星(ALOS-3)「だいち3号」の喪失を受け、打ち上げ失敗時の衛星喪失リスクにともなう影響を考慮するとともに、早期のフライト実証を行い、 今後の打ち上げ計画への影響を最小化することを念頭に進められました。このため、試験機1号機のミッション解析結果を最大限活用できる機体形態として、試験機1号機と同じ「H3-22S」形態とし、 ペイロードにはALOS-3と同等の質量特性をもつ「ロケット性能確認用ペイロード(VEP-4)」を搭載し、軌道投入(第2段エンジン第1回エンジン燃焼停止)までの飛行経路は試験機1号機と同様としました。 また、2機の小型副衛星「CE-SAT-IE」、「TIRSAT」に対して、軌道投入の機会を提供しました。試験機2号機は2基の小型副衛星を分離後、コストフェーズを経て、第2段機体の制御再突入のための再着火を実施、 第2段機体の軌道離脱燃焼後にダミーペイロードであるVEP-4を用いた衛星分離部(PAF)の動作検証を経て、制御再突入を実施しました。2号機のフライトを通して、機体各部の挙動が良好であることを確認しました。
H3ロケット試験機1号機は、初めてH3ロケットを実際に打ち上げ、総合システムとしての最終試験を行うとともに、 その一環としてJAXAが開発した先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)を搭載し、所定の軌道へ投入することを目的に打ち上げられました。
機体形態は「H3-22S」で、LE-9エンジンが2基、固体ロケットブースタ(SRB-3)が2本、ショートフェアリングを搭載します。 試験機1号機でLE-9が2基なのは、H-IIBロケットで実績のあるエンジンを2基束ねた形態からの段階的検証を重視したためです。 SRB-3が2本、ショートフェアリングであるのは搭載する衛星である「だいち3号」の寸法や質量、打ち上げ軌道に合わせて機体形態を決定しました。
試験機1号機は当初、2023年2月17日に打ち上げを予定していましたが、リフトオフ直前までの異常監視中に1段機体制御コントローラーが誤作動したことから、打ち上げを中止しました。 原因究明と対策を取り、同年3月7日に再度打ち上げを実施しましたが、第2段エンジンが着火しなかったことにより、所定の軌道に投入できる見込みがないことから、ロケットに指令破壊信号を送出し、打ち上げに失敗しました。
H3ロケットは電気信号をロケットの頭脳「VCON2」から流して各バルブを作動させ、エンジンを着火させます。 試験機1号機では第2段エンジンに着火のための電気信号を送った直後に、2段機体の搭載機器の1つである「推進系コントローラ(PSC2)」が異常を検知し、下流機器への電源供給を遮断しました。 PSC2は「PSC2A」(A系)と「PSC2B」(B系)の2つの回路を持っており、一方が故障しても、もう一方で補える冗長設計としておりましたが、A系での電源供給遮断後、切り替えた先のB系においても同じく異常を検知し、 電源供給の遮断という結果となり、第2段エンジンの着火に至りませんでした。
「故障の木解析(FTA、Fault Tree Analysis)」と呼ばれる分析する手法を用い「2段エンジン不着火」という発生事象から、それに繋がる因果関係を洗い出し原因を特定する解析を実施しました。 その結果、推進系コントローラ(PSC2)又はその下流機器で想定以上の大きな電流(過電流)が発生し、PSC2もしくはエキサイタが損傷したため電気系統の遮断が発生したと特定しました。ではなぜその過電流が発生したのか。 さまざまな過電流の発生シナリオを想定し検証や再現試験を行った結果、最終的に3つのシナリオに絞り込みました。
【原因と考えられるシナリオとその対策】
①エキサイター内部で軽微な短絡、SEIG後に完全に短絡 ⇒ 絶縁強化および検査強化を実施する
②エキサイターへの通電で過電流状態が発生 ⇒ 部品選別により電圧を定格内とする
③PSC2A系内部での過電流、その後B系への伝搬 ⇒ 定電圧ダイオードを取り除きB系への伝搬を防止する
早期に2号機を打ち上げるため、この3つのシナリオから1つに絞りこむことには固執せず3つ全てに対策を打つこととしました。またなぜこうした事象が起こるに至ったのか背後要因の分析も併せて行いました。
打上げ失敗の原因究明活動を通じてH3ロケットの信頼性向上に繋がる改善点を抽出することができました。 具体的には「H3ロケットの計測データ充実化」と「H3ロケットの冗長切り替えロジック改善」を行います。 また開発体制の強化を目的として「ロケット電気系開発の強化」についても取り組む予定です。
燃料タンクとLE-9エンジンを組み合わせ、飛行時の圧力や温度を地上で模擬することを目的とした総合的な燃焼試験です。 タンク以外は実機と同じ構成部品を使用し、実フライトと同じく2基もしくは3基を束ねて燃焼させる大規模なもので、 2019年1月から2020年2月までに計8回(2基形態を5回、3基形態を3回)、三菱重工株式会社 田代試験場で実施しました。
H3ロケット実機の2段機体とLE-5B-3エンジンを組み合わせ燃焼試験を行うことにより、推進系としての機能・性能を検証することを目的としています。 2020年7月から8月にかけて計3回、三菱重工株式会社 田代試験場で実施しました。
2021年3月17日から3月18日にかけて極低温点検(F-0)を実施しました。
極低温点検では、打ち上げを行う射点にH3ロケットを立て、ロケットに推進剤の液体水素と液体酸素を充填し、 エンジンに着火する直前までのカウントダウン作業のリハーサルを行うもので、ロケットに実際に極低温の推進剤を流し込むため、極低温点検と呼びます。
この試験ではロケットと地上設備、安全監理という3つのシステムのインタフェース確認も実施しました。 これにより、組み立てた機体と射点設備を組み合わせた状態で、打ち上げまでの作業性や手順を確認することができました。
実際の打ち上げと異なる点としてただし、フェアリングは過去の開頭試験で使ったものを、また第1段のメインエンジンであるLE-9はまだ完成していないため試験用のものを使用しました。
火工品であるSRB-3ブースターやフェアリングの分離などで用いられる火薬類も装着していません。
2022年11月6日から11月8日にかけて第1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)を実施しました。 実際の打ち上げで使用する機体とエンジンを用いた総合システム試験で、打上げ射場である、種子島宇宙センター大型ロケット発射場の第2射点でおこなわれます。
第1段エンジンであるLE-9を燃焼させますが、ロケットが飛んでいかないよう、固定した状態で実施します。 地上設備とロケットのインターフェイスが取れているか、LE-9エンジンがきちんと燃焼しているかなどを、実際のフライトに近い状態で試験します。
新型ロケットの開発には数々の技術的課題が立ちふさがりました。 特に第1段メインエンジン「LE-9」の開発においては、事前に「LE-X」という試作エンジンの設計、開発を行い、 要素(部品)単位での試験も行うなど十分な準備をして挑みましたが、それでも技術的な課題が幾つも発生しました。
2019年、基本的な機能・性能に関する技術データの取得を目的とした試作エンジン(実機型エンジン)の燃焼試験を繰り返していた段階において、
3D 造形製造法(3D プリンター)で製作した噴射器の燃焼特性に異常が見られました。
また液体水素ターボポンプ(FTP)のタービンの翼には繰り返しの力を受け強度が低下したことで発生する、ひびのようなものが確認されました。
これらの事象を受け2019年10月にLE-9開発を2段階に分けて認定することとなりました。
まず第1段階では、これまでの実績がある機械加工噴射器の適用のほか、共振*領域以外で運転する「タイプ1」エンジンを開発、
続いて第2段階では、3D造型製造法による噴射器を適用し、共振領域そのものの排除するよう改良した「タイプ2」エンジンを開発することとしました。
(*共振:物体が外部の振動と同期してさらに大きく振動する現象)
■第1段階(タイプ1エンジン):
実績のある機械加工噴射機の適用、共振領域以外での運転
■第2段階(タイプ2エンジン):
3D 造形による噴射機の適用、共振領域そのものを排除
2020年2月から「タイプ1エンジン」の認定型エンジン燃焼試験(QT)を開始しました。 QTとは、実際の打上げに用いるエンジンと同等設計・プロセスで製造した試験用エンジンによる機能・性能の確認および寿命実証を目的とした燃焼試験で、 運用時に遭遇し得る環境を想定した厳しい作動条件を含む試験を計8回、累計1098.5秒間に渡り実施しました。 2020年5月26日に実施した8回目の燃焼試験後のエンジン内部点検にて、 「燃焼室内壁の開口」と「液体水素ターボポンプ(FTP)タービンの疲労破面」という2つの事象が確認されましたことを受け、 その対策のために試験機1号機の打上げ時期を2021年度、試験機2号機を2022年度に変更しました。
この2つの事象に対して対応策の適用と、その有効性の確認を進めた結果、「燃焼室内壁の開口」については対応策を確立することができました。 一方の「液体水素ターボポンプ(FTP) タービンの疲労破面」については一定の目途を得たものの、 有効性検証するための試験中に新たな技術課題が発生したことを受け、確実な打ち上げを行うため開発計画を再び見直し、 試験機1号機の 打上げ時期を2022年度に変更しました。
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