H3試験機1号機は、初めてH3ロケットを実際に打ち上げ、総合システムとしての最終試験を行うとともに、 その一環としてJAXAが開発した先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)を搭載し、所定の軌道へ投入することを目的としています。
機体形態は「H3-22S」で、LE-9エンジンが2基、固体ロケットブースタ(SRB-3)が2本、ショートフェアリングを搭載します。
試験機1号機でLE-9が2基なのは、H-IIBロケットで実績のあるエンジンを2基束ねた形態からの段階的検証を重視したためです。
SRB-3が2本、ショートフェアリングであるのは搭載する衛星である「だいち3号」の寸法や質量、打ち上げ軌道に合わせて機体形態を決定しました。
H3試験機1号機フライトイメージ
ロケットのカラーリングやデカールなどのデザインは、H3の「シンプルに洗練」というコンセプトを反映しています。
フェアリングには「JAXA」と「H3」のロゴマークを入れました。なお、H3は将来的に民間事業者である「三菱重工業株式会社」に運用を移管する予定のため、いずれJAXAロゴはなくなる見込みです。
また打ち上げる搭載衛星のロゴマークなどを貼り付けることができるスペースも確保しています。H-IIA/Bでは、段間部と呼ばれる第1段と第2段の間にあたる部分にミッションロゴを 貼り付けていましたが、H3では形状が変わって貼れなくなったため、場所をフェアリングに移しています。
更に黒い矢印形をアクセントとして入れています。この黒はフェアリングを構成している複合材の地の色が出ています。
第1段機体には日本の国旗と「JAPAN」の文字を入れています。H-IIA/Bまでは「NIPPON」と表記していましたが、 H3ではグローバルな打ち上げサービスの実現を目指しておるため世界的により一般的な名称である「JAPAN」に変更しています。
H3試験機1号機で打ち上げる先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)は、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の光学ミッションを引き継ぐ地球観測衛星です。
「だいち」は2006年に打ち上げ、2011年まで運用されました。地上を光学センサー(カメラ)で撮影できる技術の実証し、地図作成や資源調査、災害状況の把握などで活躍しました。
「だいち3号」は、その能力を受け継ぎつつ、大型化・高性能化したセンサーを搭載します。
「だいち」と同じ、70kmという広い観測幅(視野)を維持しつつ、高い地上分解能(どれだけ地上のものを細かく見られるかという指標)は「だいち」の2.5mから「だいち3号機」の0.8mへと大幅な能力向上を実現します。
「だいち3号」は地上のあらゆる地点を定期的に観測できることから、国内・海外を問わず全地球規模の陸域を継続的に観測することができ、 蓄積した平常時と災害発生時の画像を迅速に取得・処理・配信するシステムを構築することで、国及び自治体などの防災活動、災害対応になくてはならない手段のひとつになることを目指しています。
とくに、「だいち3号」の地上分解能は「だいち」に比べて大幅に向上するため 、建物の倒壊や道路の寸断の状況がより明確に視認できるようになります。
さらに、災害発生前後の画像の比較により、詳細な被害状況を速やかに把握することも可能になります。
「だいち3号」の観測画像は、わが国や開発途上国の高精度な地理空間情報の整備・更新に貢献するほか、 多様な観測機能による沿岸域や植生域の環境保全への利用・研究など、さまざまな分野での活用が期待されています。
H3試験機1号機ミッションでは、まず2021年3月17日から3月18日にかけて極低温点検(F-0)を実施しました。
極低温点検では、打ち上げを行う射点にH3ロケットを立て、ロケットに推進剤の液体水素と液体酸素を充填し、 エンジンに着火する直前までのカウントダウン作業のリハーサルを行うもので、ロケットに実際に極低温の推進剤を流し込むため、極低温点検と呼びます。
この試験ではロケットと地上設備、安全監理という3つのシステムのインタフェース確認も実施しました。
これにより、組み立てた機体と射点設備を組み合わせた状態で、打ち上げまでの作業性や手順を確認することができました。
実際の打ち上げと異なる点としてただし、フェアリングは過去の開頭試験で使ったものを、また第1段のメインエンジンであるLE-9はまだ完成していないため試験用のものを使用しました。
火工品であるSRB-3ブースターやフェアリングの分離などで用いられる火薬類も装着していません。
実際の打ち上げで使用する機体とエンジンを用いた総合システム試験で、打上げ射場である、種子島宇宙センター大型ロケット発射場の第2射点でおこなわれます。
第1段エンジンであるLE-9を燃焼させますが、ロケットが飛んでいかないよう、固定した状態で実施します。
地上設備とロケットのインターフェイスが取れているか、LE-9エンジンがきちんと燃焼しているかなどを、実際のフライトに近い状態で試験します。
©Japan Aerospace Exploration Agency